「それでも私は……」言いかけたところで、叶人は口を閉ざす。
自分は何を言おうとしたのだろうと疑問を抱きながら。
「でもさ、本当にやりたいことは他にあるんじゃない?」
「……っ!」
図星を突かれ、思わず息を飲む。
叶人の頭に浮かんでいたのは、
「俺は……父さんのような叶え人になる」という言葉だ。
叶人は父の背中を追いかけてきた。だからこそ、父がどんな思いで叶人を鍛え上げてくれたのかを知っている。
叶人は知っているのだ。父がどれだけの覚悟を持って叶人に修行をつけてくれたかを。
そして、
「俺の父さんのようになりたいから」
叶人は拳を強く握りしめ、はっきりとそう言った。「……そっか。うん、わかった」
女性はニコッと微笑むと、どこからともなく剣を取り出した。
「じゃあ、早速始めようか。君がどれだけのものを持っているのか確かめさせて貰うよ。まぁ、私の弟子だし、才能はあると思うんだけどね〜♪」
その笑顔に、叶人は冷や汗を流すのだった。
「お疲れ様です師匠。タオルどうぞ」「ありがとうございます姫宮先生」
「もう、彩花でいいって言ってるじゃないですか〜」
頬を膨らませて抗議の声を上げる女性の名は姫宮彩花。

叶人がこの道場に来てから5年経った今でも、叶人は彼女から一本も取れていない。
それもそのはず、
「彩花さんが強いんですよ。剣術もそうですけど、身体能力だって凄まじいですし……」
叶人がこの道場に通い始めてから半年ほど経つが、未だに彩花には勝てずじまいで、今では師匠と呼んでいる始末である。「まぁ、私の場合は小さい頃からずっとやってましたからね〜」
そう言う彼女の手には、長年愛用している木刀がある。
彼女は今年で28歳になるらしく、叶人と年齢はそこまで変わらないが、とてもそうとは思えない容姿をしている。
綺麗に切り揃えられた黒髪。大きな胸。モデル体型。これだけでも美人の条件を満たしているというのに、性格までも完璧であるのだから、叶人が憧れを抱くのも無理はない。
そんな彼女が、叶人に対してこう言った。
それは、叶人にとって人生を変える一言だった。